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Chirico

天国への道

香川に居を移して6年が過ぎました。 3年前から香川でコキカルの作品を発表するようになり、その時期からスタッフとして支えてくれた川田真裕氏が10月21日、大好きだったバイクのツーリング中に事故にあい、天国に旅立ちました。 彼はこれまで舞台とは関わりのない人生を送っていました。 メンバーのスワキヒロコさんのパートナーとして、彼女を送り迎えするうちに、コキカルのスタッフとして関わるようになってくれました。

舞台に対して先入観のない彼から出てくる言葉は、コキカルの作品に欠かせない要素で、彼の懐の広さと陽気さが、コキカルの作品を明るく照らしてくれていました。

彼を失った実感はまだありません。 今、私に何ができるかな、と考えました。

そして、彼がコキカルに居たことを、書き留めておこうと思いました。

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★Coquecal Concrete poetry #7 「白秋と夫、その妻とすずめ」 @ギャラリーカフェ e・COCOCHI・多度津町

会場となったのは多度津町の旧町内にある古民家カフェ。 駐車場がわかりにくいということで、当日来てくれた彼を外に連れ出して、あれよあれよと言う間に駐車場の案内係をおまかせしてしまった。

後で話を聞いたら、とにかく丁寧に最後まで案内してくれてとても有り難かったとのことだった。 ★Coquecal short pieces Op.1  エンデのための鏡と時間の影 @本屋 ルヌガンガ ・高松市 「オープニングは影絵やりたいので作ってくれるかな」とスワキさんにお願いした。 そしたらあまりにも2人が頑張ってくれるので影絵を動かすのも一緒に舞台でやってもらおうと、暗転でも懐中電灯、持ってもらったら動けるし大丈夫、って思っていたら本番中、順番間違いそうになってた私を、彼がそっと手を伸ばして助けてくれたことを覚えている。 このころからビデオを持ってきて記録担当を買って出てくれていた。 そう、彼は常に仕事を買って出てくれる人だった。 ★Coquecal short pieces Op.2  地下室のラプソディ @ Tetugakuya・多度津町

彼は本当になんでもやろうとしてくれる。 この作品では、照明のスタンドを作ってくれた。

家でなんで溶接なんてできるの、と聞いたら、バイクいじったり、自分で作ったりするのが好きだから、って。マネキンの台を流用したシンプルなものだけど、会場の金庫室に映える素敵な照明になった。

このときも駐車場が遠い場所での公演だったので、当日は駐車場の案内係だった。 当日はとても暑い夏の日。汗をびっしょりになって、ずっと走り回ってくれた。

案内係も映像の機材もますますパワーアップしていた。 Coquecal open Lab. #7.5 「ライフ」@ ノトススタジオ・善通寺市

彼にとって初の劇場でやる舞台。

今度は、ダンボールでミニチュアの家を作って欲しい、とお願いした。

これも「やりますよ!」と喜々として作ってくれた。ひとつひとつこだわりがあって、「これはマクドナルドでー」とか言いながら楽しそうに説明してくれた。 劇場入り前に、彼に、お願いを一つだけした。 「舞台に上がるときは、舞台監督か出演者に聞いてから動くこと」 でも、肝心なことを忘れていた。彼は常に仕事を買って出るひとだった。 目の前で困った人がいたら、そりゃ先に身体が動くよね。 公演後、舞台美術の写真が欲しい、と言うと、こっそりスワキさんと海まで出かけていって撮影してくれた。 劇場でルールに従わないことは、よくないことかもしれない。 でも、ひととしてはあるべき姿だったんじゃないかな、と今は思う。 彼はいつも自分に何ができるのか、役割を買って出て、楽しんで関わってくれた。 たくさんの時間をコキカルと過ごしてくれた。

ほんとうにありがとう。

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最後に会ったのは、9月29日。

前の公演以降、行き違いがあったので、一度会って話さなきゃと思いつつ、のばしのばしにしていた私は少しそわそわしていた。

まーくんはサラダバーが好きだと聞いて、すわきさんと3人でビッグボーイに行った。メニューを眺めると、厚切りいちぼステーキのフェア中だった。いちぼってどこ?とかいいながら、私は厚切りいちぼ、すわきさんは和風ハンバーグ。まーくんは厚切りいちぼとでっかいエビのセットを注文した。

まーくんはサラダバーとお肉を頬張りながら、念願の看護師になったばかりで、患者さんと話すのが楽しくてしかたない、おもしろい患者さんばかりだからぜひキリさんに会ってもらいたいわー、といつものように上機嫌だった。そして、ひーちゃんとこれから住む家を改修しているんですよ、とさらに嬉しそうな笑顔で語る。 その隣で、すわきさんはいつもとかわらずにこにこしていた。 お会計時に私がレジ横のメニューをみながら、やっぱりエビも食べたかったってポロッと口にしたら、まーくんは、え、キリさんがすすめてくれたんやんーって呆れて笑った。

帰り際、2人に向かってまた舞台一緒にやろうね、って言えたら、と思っていた。 でも、口にできなかったような気がする。結局言えたかな。 まーくんは笑顔だったけど、私はちゃんと笑えてたかな。

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お葬式から3日後に、こんなことが頭をよぎりました。

もしかしたら彼は、自分よりひとのいのちのほうが重かったのかもしれない。 ひとのいのちより、自分のいのちが軽いとさえ思っていたのかもしれない。 そうやって人の心に寄り添い行動する人だったんじゃないかなと。

こんなこと言ったら「またーキリさん考えすぎー」って笑われるだろうな。 そう、思い過ごしにちがいない。 でもたとえ思い過ごしでなかったとしても、あなたの笑顔を失ってしまってとても寂しい なんでも上機嫌に話すあなたの声を聞けないことは、とても悔しい

いつか、あなたのように人の心に寄り添えるようになれるかな。

少しでも近づけるように、これからも舞台を、演劇を続けていこうと思います。

次のLIFEでまた逢おう。

コキカル 主宰 桐子カヲル

追伸:

最後まで迷ったけどやっぱりこの曲がいい。

ー宇多田ヒカル「道」ー

天国まで届きますように。

PHOTO: Masahiro Kawada

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